水戸桜川地誌

見川町 桜川緑地付近
見川町 桜川緑地付近

千本桜を語る前に、桜川がどういう川なのかを明らかにしておかなければなりません。

facebookにも書かせていただいた桜川の地誌、水戸と桜の歴史、今後の展望などについて再構成しながら、これからブログに順次書かせていただきたいと思います。まずは地理的な基礎知識からまとめてまいります。

 

 地図で見ると、茨城県水戸市のほぼ中央部を北西から南東に貫流する桜川(さくらがわ)は、全長19㎞の国土交通省指定の一級河川で、水系でいえば那珂川水系*に属している。流域面積でみると75㎢で、栃木県下野市の面積とほぼ同じ大きさとなる。水戸市と笠間市にまたがる朝房山(標高201m)の笠間市池野辺が源流とされているが、水戸市の三野輪池や森林公園近辺からの沢筋からの流れも合流して上流部を形成している。朝房山については『常陸国風土記』や民話の伝承があるが後述したい。源流地周辺にはいくつかのゴルフ場があり、谷合の田畑や集落に寄り添いながら、その流れは台地に到っている。 

 合流する河川としては、水戸市見川町で準用河川の狭間川(約2.8㎞)、同じく見川町で一級河川の沢渡川(約7㎞・新原で「堀川」と合流)水戸市中央2丁目で一級河川の逆川(約6㎞)があり、分流としては柳町2丁目から備前堀(約12㎞)*がある。また、導水としては現在、渡里用水および霞ヶ浦導水*の2ルートから導水されている。水戸市若宮町で桜川は那珂川と合流する。

 地質学的には桜川は、最後の氷河期の2万年前から1万8千年前にかけての時期におきた海退期に、河川の流れが急になったことで刻まれた谷を起源とする。これを「古桜川」と呼ぶ。6000年前にすすんだ「縄文海進」による地球温暖化による海水面の上昇で、海岸線は千波湖周辺まで進んだ。5000年前から3000年前にかけて現在の海水面に再び低下すると、それまで独立の川だった桜川は那珂川と合流して海にそそぐようになった。

 水戸市民に愛され、水戸を代表する景観ともいえる千波湖(せんばこ)は、約332,000㎡・周囲約3㎞で、かつては桜川が直接流入していたが、那珂川の土砂が堆積して河口が閉塞した「名残沼」である。江戸時代には現在の約3.8倍の広大な湖沼であった。当初那珂川には千波湖の東辺から北上する流路であったが、現在の下市にあたる場所に街が形成されるにあたり、慶長15(1610)年に備前堀が、元禄14(1701)年には現在の流路の原型である新川がつくられた。大正9(1920)年から本格化した千波湖改修事業で千波湖と桜川との分流がはかられるようになった。以来、備前堀手前まで広がっていた千波湖は干拓されて広大な水田となったが、昭和に至って市街化が意識されるようになり、戦後には本格的に市街地が形成されるようになった。

 戦後、流域人口の増加で、宅地化がすすみ、地下水への雨水の浸透が減少すると、湧水などの減少に伴い、桜川の流量は減少の一途をたどった。一方で降雨時の排水の集中により溢水・洪水の危険性は逆に高まるなど様々な課題が生じた。また、下水道の整備の遅れ等もあって水質が悪化し、現今に至っても千波湖の水質問題は課題となっている。

 そうした中で、桜川は昭和47年に建設省の中小河川整備事業の対象として、整備が開始され、昭和63年に同省ふるさとの川整備事業の対象となった。また同年には農業用水である渡里用水から桜川への導水がはじまった。平成5年には全国都市緑化フェアの水戸開催を契機に整備が加速し、下流域には広い氾濫原を確保し、偕楽園公園・千波公園の景観と一体となった全国にも誇れる河川空間が広がっている。また好文橋より上流部分には洪水対策と水質浄化を意識した広大な桜川緑地・調整池空間が広がっているが、未整備地も多いが、整備は途上にあるといってよいだろう。平成13年度には霞ヶ浦導水の桜揚水機場が水戸市河和田町の桜川横に完成し、那珂川からの導水が可能になった。

 

*那珂川…那須岳周辺を源流とする全長約150㎞の関東第3の大河であり、関東随一の清流と言われている。上流部に大きなダムがないことでも知られており、安定的な水量をたたえた川である。

*備前堀は、慶長15(1610)年に初代水戸藩主徳川頼房の命で、当時の関東郡代である伊奈備前守忠次がつくった用水。当時しばしば洪水をおこした千波湖の洪水対策と、干ばつ時の灌漑対策を兼ねてつくられた。

*霞ヶ浦導水…渇水対策・水質改善等を目的に開始された那珂川~霞ヶ浦~利根川を結ぶ巨大導水事業。工事は未完成。

 

【参考文献】

『水戸市史』上巻(1963)

『概説水戸市史』(1999)

大槻 功『都市の中の湖』(文眞堂、2001)

 

 

6/8(土)講演会&総会 案内はイベントページへ

水戸市民会館「水戸キャンパス100」5/15・6/19の講演案内→イベントページへ

協賛企業